カテゴリ:建築( 86 )

ソウルの新名所、尹東柱文学館

ずっと行ってみたかった所がある。鐘路区清雲洞にある尹東柱文学館だ。去年の秋に「the Traveler」という旅行雑誌に紹介されていて、ぜひ訪ねてみたいと思っていた。
尹東柱は韓国で最も人気のある「序詩」という詩を残した詩人で、日本でも人気が高い。日帝時代に詩によって民族の痛みを韓国語で謳い、日本留学中に投獄され、福岡で獄死した。
個人的には尹東柱の詩は「序詩」くらいしか読んだことがなく、それほど思い入れはなかったが、建築に興味を持って、子供と一緒に訪ねてみた。

ここは昔の水道の加圧場で、役割を終えて取り壊されるところを展示館として使おうという提案がなされ、尹東柱詩人の文学館となったもの。
光化門駅からバスに乗って、北岳山を登って行く。「紫霞門・尹東柱詩人の丘」という停留所でバスを降りると、道の向かいに文学館があった。
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小さな展示館だと聞いていたが、本当に小さい。中に入ると展示室は一つしかなく、詩を書いたノートや写真、そして詩人の家の庭にあった井戸が展示されていた。
展示物をじっくりと見ていると、子供たちに案内のおじさんが「スライドを見るかい?」と聞いている。それで一緒にスライドを見ることにした。
黒い鉄のドアを開けると、白い壁に囲まれた小さな中庭だった。もとは水のタンクとして使われていたところで、改修当時は崩れかけた天井があったというが、天井を取り払って中庭に改造した。
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壁にはタンクとした使っていた当時の汚れとはしごの跡がそのまま残っている。上を見上げると、四角く切り取られた冬空と、木が一株。一幅の絵のようだ。
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尹東柱の「自画像」という詩があるが、そこに出てくる井戸のような空間をイメージしてつくったという。それで、この空間は「開かれた井戸」と呼ばれている。

そして、もう一つの重々しい黒い鉄の門を開けると、暗い部屋があった。もう一つのタンクを改造した部屋で、映像の上映室となっていた。こちらは「閉じられた井戸」と呼ばれる部屋。
ひんやりとした冷気が漂い、粗末な木の椅子が並んでいる。案内のおじさんが、「福岡の監獄をイメージした部屋です」と説明してくれた。隣の部屋と同じような梯子の跡がある部分には、天井に窓があって光が漏れている。どんな照明よりもこの部屋にふさわしい、天然の照明だ。この部屋もまた、壁にはやはり、タンクとして使われていた当時の汚れが残っていた。
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尹東柱の一生に関する10分ほどの映像が上映される。上映開始と同時に明かり取りの窓がゆっくりと閉まった。部屋の雰囲気といい、エコーがかかった自然の音響といい、これほどにここの趣旨にふさわしい演出はないのではないか。

韓国の独立のために韓国語で詩を書き続け、祖国の解放のために日本に渡り、解放直前の1945年2月に獄死したという事実は、重々しいものを残しながらも、大義のために自分を捨てるという行為を果たして自分ができるのだろうかという問いを残した。「自分を捨てる」という表現は違うのかもしれない。彼が生きる道というのは、どのような境遇に逢ったとしても祖国のために詩を書くということだったのだから。

この文学館のリモデリングを担当したのは46歳の女性建築家、イ・ソジンさん。この建築は、大韓民国公共建築賞の国務総理賞を受賞した。話題になっている二つのタンクは土の中に埋まっていて、初めはその存在さえ知られていなかったという。設計を終えた時、このタンクが偶然に発見され、設計を一からやり直した。このタンクがなかったらこれほどの話題になる建築とはならなかったのではないだろうか。また、それは担当の区の職員が工期の延長を許さなかったらできなかったことだ。

文学館から出ると、脇には小高い丘に登る階段がある。「尹東柱詩人の丘」と名付けけられた散策路だ。登って行くと先ほどの「開かれた井戸」を上から眺められる。
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また、北岳山やソウルの街並みを眺められる。尹東柱詩人がここを散策しながら何を考えていたのだろうかと思いを巡らせてみる。
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詩人と建築家と、そして鐘路区の担当職員が、時代を越えてコラボレーションをして創り出した幸せな空間だ。今度はぜひ、妻を連れて来たい。

尹東柱文学館について詳しく書かれたブログ。私よりずっとうまい文章だし、感動的なストーリーなので、韓国語ができる人はぜひ読んでみて欲しい。
http://blog.hani.co.kr/bonbon/45048

アクセス:地下鉄5号線光化門駅2番出口を出てすぐの停留所で7212番か1020番バスに乗り、「紫霞門・尹東柱詩人の丘(자하문, 윤동주 시인의 언덕)」下車。
入場料:無料
休館日:月曜日、公休日
開館時間:10時〜18時(11〜3月は17時)まで
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by matchino | 2013-01-20 22:09 | 建築 | Comments(1)

再び訪ねる名建築「夢の床」

せっかく建築の本を買ったのに、土日に仕事があったりするわ、祭日は雨が降るわで、その建築をなかなか見に行けてない。
そんな中で、家族とオリニ大公園に行く機会ができた。
たまたまデジイチを持っていたので、この時とばかりに以前紹介した「夢の床」を見に行った。
娘に「ついてくるか」と訊いたらついてきた。
写真を撮りながら、娘にこの建築の持つ歴史について語ったら、珍しくよく聞いていた。
「娘と共に旅立つ建築旅行」の本の著者のようだと思った。
というわけで、今回撮った写真。
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絵になるー。けど、写真の実力がないー。
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by matchino | 2012-08-21 21:43 | 建築 | Comments(5)

忘れられた美しい空間「夢の床」その1

ソウルの「オリニ(子供)大公演」で、ついに見ることができた「夢の床」。
紹介したいことがいろいろあって忘れていたけれど、前回の続き。

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右の方に回っていくと中庭のような空間があった。
ベンチとテーブルが置かれているが、「廃墟」というイメージはぬぐえない。
家族連れでいっぱいの外側とは正反対に、二組の人たちがゆっくりと話をしていた。

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芝生は荒れ、向こうにある池の水も汚れている。

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中に入ってみても廃墟のような雰囲気ではあるが、建築自体の空間は美しい。
春の夕日が差し、レンガの色が暖かい。

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縦の線が並ぶ中に斜めに上る階段。
ストイックな直線が美しい。

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クラブハウスとして使われていたときは何の空間だったのだろうか。
細い鉄骨が空間を切り取る。

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階段を上りきったところにハングルの子音「ㅎ」が実る木が描かれていた。

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さびた鉄骨とコンクリートが美しい四角い空間を作り出している。
満開の木蓮の花がさらに美しく見える。

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何のための空間だったのだろうか。
中に入っているものがなくなったことで、構造がよく見えるが、
本来の使われ方をしているときはどのように見えていたのだろうか。

次回に続く。
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by matchino | 2012-06-03 22:15 | 建築 | Comments(2)

想像以上の美しさ、「꿈마루(夢の床)」

ソウルもすっかり暖かくなって、ここから近いオリニ(子供)大公園でも「春の花祝祭」が開かれている。桜が満開だった日、子供たちを連れ出そうと思ったが、友達と遊ぶのが忙しいらしく、一番下の子だけ連れて行ってきた。

今回の目的は、もちろん桜もあるけれど、実は私にとってそれ以上に重要なのが「꿈마루(夢の床)」。去年、韓国鉄道の雑誌の記事で知った建築物だ。
ナ・サンジンという建築家が設計したこの建物は、当初はゴルフ場のクラブハウスとして使われたが、数ヶ月でここが子供のための公園として生まれ変わることによってその役割が変わってしまった。
そんな運命を辿り、老朽化により取り壊しの話も出てきた時、この建築物の価値を再認識する動きが出てきた。そして、チョ・ソンリョンという建築家が「夢の床」という名でリニューアルしたのだ。この建築家は漢江の中州である仙遊島の元水道施設を市民公園としてリニューアルしたことで有名だ。私はこの公園が好きで、この「夢の床」に大きな関心を持った。だから前から行ってみたい建物だったのだ。

息子を動物園やすべり台で遊ばせながら探すこと3時間、やっとこの「夢の床」に辿り着いた。
今まで何回かこの建物の前を通ったけれど、まともに管理されていなかったため、みすぼらしくさえ見えていた。
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リニューアルされた今でも子供たちの好みに合わせた広告や看板などに埋もれて場違いな感じだ。
しかし、中に入ってみるとこんな建築物が今まで知られていなかったのが惜しいと思うほどのすばらしさだった。

中の写真は次に紹介しよう。
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by matchino | 2012-04-28 21:34 | 建築 | Comments(0)

Josep Maria Jujol

久しぶりにコエックスに行って、バンディ&ルニスという大型書店に寄った。
また展示会ブースのデザインを依頼されそうなので、店舗デザインの本をあさる。
その中で目に留まったのが、Josep Maria Jujolという建築家の写真集。ガウディの建築に似ていると思ったが、調べてみると、ガウディと一緒に仕事をした人らしい。独特な形と色彩感覚が素晴らしい。
天井がカメラの絞りのように重なって、その真ん中にイエス像があるなんて、こんな美しさ、あり得るのか!
やっぱり、スペインは一度は行くべきだなあ。
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by matchino | 2011-07-12 20:59 | 建築 | Comments(0)

リモデリングされた「夢の床」

営業で、高速鉄道KTXに乗って慶州までいってきた。
車内誌を見ていると、いろいろな旅行情報が載っている。
その中で目を引いた建築の話題。
ソウルにある「子供大公園」内の、ある建物の話だった。
「子供大公園」が造られる前、ここはゴルフ場で、この建物はクラブハウスとして建てられたものだったという。しかし、建てられて間もなくゴルフ場が公園に変わることとなり、この建物は公園の建物として使われることになった。나상진(ナ・サンジン)という建築家によって建てられたこの建築は建てられて間もなく、数奇な運命をたどることとなったのだ。子供のための各種展示会に使われ、老朽化して取り壊される話が出た時のことだった。ある建築家がこの建物の価値を認め、リモデリング計画を立てたのだ。
その建築家の名は조성룡(チョ・ソンニョン)。仙遊島の古くなった水処理施設を市民のための公園として見事に蘇らせた建築家だ。
私もこの建築家のことは、この記事を読んで初めて知った。仙遊島は何回か行ったことがあるが、初めて訪れた時、よくこんなにもうまく公園として活用したものだと感心した。やはり優秀な建築家の設計があったのだ。
さて、「子供大公園」の「꿈마루(夢の床)」と名づけられたこの建物、3階は無料のプックカフェになっているという。子供たちを連れていくか、あるいは妻とデートするか。後者にしたいものだが…。
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by matchino | 2011-07-10 20:45 | 建築 | Comments(0)

サントスピリト教会

日本出張の夜、一人で本屋に行った。
建築の雑誌を見ていると、ある建築物の写真に目が留まった。サントスピリト教会、イタリアにある教会だ。ブルネレスキの設計で、独特なファサードを持っている。
で、なぜこの建築が気になったかというと、大学の時、この教会を模して課題の建築模型をつくったからだ。
この課題に入る前に建築写真のスライドをたくさん見せられた。半分うたた寝しながら見ていたのだが、この建築のファサードだけが強烈に残った。
それで、このファサードを持つ建築物のスケッチを描いた。そのスケッチを見た、建築家で担当講師の板屋さんが「君は建築が好きなんだねえ」と言った。その言葉を今でも忘れない。もしかしたらその時に、自分は建築が好きだということを知ったのかもしれない。
でも、建築の美しさに気づかせてくれたこのサントスピリト教会に、その時以来、写真にも出会えなかった。その建築に再会できたのだ。
自分の好み、特に芸術に関しては、ほとんど大学生のころに完成しているのかもしれないと、ふと思った。
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by matchino | 2011-04-28 20:53 | 建築 | Comments(1)

自由学園明日館

出張で時間ができたので、自由学園明日館を訪ねた。観覧時間を過ぎていたが、外からなら見えるのではと思い、とりあえず行ってみた。池袋から歩いてすぐの閑静な住宅街の中にあった。
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ここを訪ねたのは20年ぶりだ。前回の訪問は大学の授業で、画家である藪野健先生に連れられて行ったのだが、その時と比べて受ける雰囲気が全く違った。とても小ぢんまりした印象を受けた。
敷地内には入れなかったので惜しかったが、外からみているだけでもその美しさに感動する。さらに、庭に植えられた桜が満開で、なんともいえない素晴らしい光景だ。ライトは草原に建てる建築物をイメージして設計したということだったが、この建物と庭によってそのような雰囲気がすでにつくられていた。
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そこでしばらく見ていると、学生らしい一団がやってきた。カメラを持った外国人や、おじさん、おばさんの一団もやってきた。いつでもたくさんの人がやって来るスポットなのだろう。後で分かったのだが、学生たちは空間デザイン学校の入学式で来ていたらしい。こんないいところで入学式ができるなんてうらやましい。
この建物、一度は取り壊しの危機に追い込まれたこともあったが、保存されることとなり、国の重要文化財になっているという。日本の宝として残してくれた人々に感謝。
この次に来るときには、ぜひ中にも入ってみたいものだ。それがいつになるかは分からないが、また来たくなる場所となった。
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by matchino | 2011-04-17 21:16 | 建築 | Comments(0)

大阪建築巡り8

まだまだ続く建築巡り。

大阪ガスビルディング
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芝川ビル
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ガイドには「マヤ・インカ風アールデコ建築」とあったが、まさにそういう装飾たち!
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中に入ってみたが、いい雰囲気だ。
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階段もいい作り。
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1階の古い眼鏡屋。やはりこういう店がよく似合う。
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by matchino | 2010-11-30 21:09 | 建築 | Comments(6)

大阪建築巡り7

清水猛商店
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和洋折衷の建築様式といえばそれで終わってしまうのだが、それを越えた何かが感じられる建築。
私の常識としては、建築があって、その上に看板が掲げられているというのが普通なのだが、この建物の場合、看板まで含めて建物全体のデザインが成り立っている。
一つの彫刻のようにもみえる建築だった。
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by matchino | 2010-11-10 21:20 | 建築 | Comments(0)