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8月中の限定公開! 旧・朝鮮銀行重役社宅

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韓国古建築散歩のりうめいさんからオファー。
「高宗の道旧朝鮮銀行社宅」を見に行こうと。

なになに? 高宗の道といったら、俄館播遷の時に高宗がロシア公使館に向かった道のことだろうけれど、それと朝鮮銀行社宅というのがつながらなくて戸惑った。
で、詳細記事を教えてくれたので読んでみると、アメリカ大使官邸の裏を、俄館播遷の時に高宗の通った道のりを整備して「高宗の道」として試験的に公開するということ。そして、昔は徳寿宮の領域で、璿源殿(ソノンジョン)などの建物が建っていたけれど、日本統治時代に解体されてしまったものを復元するという。
そこまではよかった。問題は、統治時代に建てられた旧・朝鮮銀行社宅を解体する前に一般公開する、ということ。こんなところに社宅があったという事実にも驚いたが、それが間もなく解体されてしまうという事実に驚きと悲しみを感じずにはいられなかった。
まるで、生き別れた兄弟が今も生きていることが分かったものの、不治の病に侵されていて余命いくばくもないという事実を知った、ドラマの主人公のような気持ちといったらいいか。
あるいは「いい知らせと悪い知らせがある」的なシチュエーションか。

とにかく行ってみなくては。
時間ができたので、りうめいさんとはまた行くとして、とりあえず一人で行ってみることにした。
ソウル市立美術館の前のロータリーからアメリカ大使官邸の前を通っていくと、大使官邸の塀の終わりに黒い門が開いていた。

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最近になって整備されたような道があり、フェンスが立てられていた。フェンスにはこの周辺の昔の写真と、例の社宅の写真。

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そして、フェンスの上には社宅の屋根と煙突が顔を出していた。

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フェンスの中には…
おおおお!
立派な二階建て家屋!

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朝鮮貯蓄銀行の重役の社宅とあって、そうとう立派な家だ。
日本家屋的な要素を探してみると、窓の中に欄間が見えたり、戸袋があったり。

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そして1階の前にはガラス張りのテラス。増築したようだけれど、これは当時のものだろうか、それとも米大使官邸として使っていた時のものだろうか。

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1938年に建てられたということだが、思ったよりも、古そうな感じがしないのは、壁が補修されているためだろうか。
そのほかにも窓に付けられている手すりが西洋的な感じだったりと、折衷的な要素も見られる。
それにしても、柵が立てられていて、中に入れないのが残念だ、荒れ放題で危険なためだろうが、解体する前に写真をしっかり残してほしいな。

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社宅は一棟だけだと思ったら、その後ろにはもう一棟。同じくらいの規模の2階建日本家屋。サンルームがない代わりに立派なポーチのついた玄関がある。やはり和洋折衷の様式が見られる。

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この二つの家屋はそれぞれどんな人が住んでいたんだろう。今は見る影もないが、庭もきれいに整えられていたのではないだろうか。それがいつこんなに荒れ果てた姿になってしまったのだろうか。

アメリカ大使官邸側は高くなっていて、整備された「高宗の道」は数メートル高い位置にある。そして、社宅側は急な傾斜になっているのだが、手前の家屋の前に一つ、奥の家屋の前には二つの横穴式の地下室がつくられていた。

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これはもしかして、防空壕? 入り口と内部はコンクリートで壁が作られている。何かの貯蔵庫かもしれないけれど、建てられた時期的にいって、戦争に備えてつくられた防空壕ではないだろうか。


それにしても、この家屋が解体されてしまうのは惜しいことだ。残っている貴重な建物を解体して、ハリボテの璿源殿を建てることに何の意味があるんだろう。
もちろん、この家屋を修理して使うことができるようにするためにはそうとうなお金がかかると思うし、修理するための名分も立てにくいというのはしようがない理由だけれども。
文献学者の金時徳氏は、著書「ソウル宣言」の中で「日本が滅亡させた朝鮮王朝を浮きあがらせて、朝鮮王室を韓民族・韓国市民と同一視しようとする動きが21世紀に入って活発化しています」と書いている。
そして、今は共和制である大韓民国であるにもかかわらず、今あるものを壊して、滅び去った朝鮮王朝の建物を復元するのはなぜかと疑問を投げかける。
その内容に共感を覚えた矢先にこの知らせ。なんなんだ、これは。最近は統治時代の建物も残されてリノベカフェになったりしているけれど、朝鮮時代礼賛はまだまだ現在進行形で続いているということか。


さて、整備されているという「高宗の道」、アメリカ大使官邸の後ろを通って旧・ロシア公使館に抜ける道が整備されていた。
道の両側に伝統様式の塀が立てられ、地面はセメントで固められて、「観光客を迎える準備」は万全といったところか。

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それにしても、高宗が俄館播遷の時に通った道は謎のままと聞いており、ロシア公使館の後ろにある地下通路を通ったという話もあるが、今回整備された道は旧・公使館の建物から少し離れたところに出ている。しっかりとした時代考証は終わっているんだろうか。もしはっきりしていないとしたら、はっきりとしていない旨を伝えることも必要なのではないだろうか。

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と、いろんなところで疑問を感じた訪問だった。
また見に来て、最後を見届けよう。
公開は8月末まで。入場時間は9時から18時。予約は不要。

by matchino | 2018-08-09 20:29 | ソウル | Comments(0)
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