美術館に行ったらブログに載せる記事をほとんどその日のうちに書くのだけれど、完成しないまま月日が過ぎ去ってしまったりする。今回もそうなのだが、まだ開催中の展示だからいいだろう。
というわけで、ソウル市立美術館で行われている「Rolling! 台湾現代美術展」を見てきた。 東洋画の伝統を土台として、西洋の美術やポップアートなどの様々な手法を取り入れている状況は日本や韓国とまったく変わるところがないが、やはり台湾の作家としてのアイデンティティを模索する面においては独自的なアプローチが見られ、興味深かった。 今回気に入った作品が幾つかあった。 まず、袁広鳴という作家の作品。3枚の大きなスクリーンを使ったビデオ作品だ。川と作家の家とその隣の廃墟の映像で、カメラがまっすぐに後ろに下がっていく。 3台のカメラを並べ、前後に設置したレールかワイヤーの下をカメラが移動しているのだろう。家の外から部屋の中まで滑らかにカメラが動き、どうやって撮ったのだろうかと不思議になる映像だ。 カメラが3台ある分、視界が広くなって、肉眼でその場面を見ているような錯覚を引き起こす。 作家はこの作品で、記憶について考察したというが、うぅむ、抽象的で難しい。 で、何が気に入ったかというと、台湾の南国的風景(といってもリゾート的なそういう風景ではなくて、台湾の住宅地の日常的な風景)と、作家の家のかっこいいインテリア、そして撮影の技法だ。 360度スクリーンとか、同じような試みはされているが、対象が日常的なことと、より肉眼での視界に近づけたことによって、より臨場感が増す映像となっているのではないだろうか。 他の気に入った作品は、姚瑞中という作家の作品で、金色に彩られた仏像などの写真が壁一面に並べられ、そこにやはり金色の恐竜の模型の型が首を突っ込んでいる。 偶像崇拝や拝金主義などの問題について批判している作品だと解説されていたが、一つの造形として興味深いものだった。 この作品は、墨による東洋画の技法の新しい形を模索した作品。大胆な構図と旧来の水墨画にはないマチエールが加えられており、水墨画としての雰囲気は残しながら、古臭くささを感じさせない魅力的な作品となっている。 もう一つ、水墨画をモチーフにしながらより立体的なものを作り出している作品があったが、写真を撮り忘れた。水墨画の巻物をアクリルのケースに入れて、それをさらに幾つも壁面に配置している。巻物は中身がずらされて、中の方の絵(?)の端の部分が見えている。その巻物の絵もモノトーンで、アクリルケースの配置もミニマルアート的な要素が強いけれど、それが組み合わされて多様な表情を見せている。これも東洋画の新しい形を標榜する作品といってよいだろう。 今回の展示は1階だけを使った比較的小規模の展示ながら、一つひとつの作品の印象が強く、けっこうなボリュームを感じさせられる展示だった。 2階の展示室では「激動期の革新芸術〜在日作家を中心に」展が開かれていた。 日帝時代の残滓が残る時代における作家たちの展示だった。韓国でこの時代を語る時、日本に対する批判的な視点で語られることが多いが、この展示では日本人の作家が何人も紹介され、暗い歴史を振り返りながらも日韓両国の明るい未来を模索する意図が見られた。 日本人の版画家の作品を見た韓国人の観覧客が「日本人なのにこんなに韓国の歴史について知っている人がいるんだね」と話している声が聞こえてきた。 また、「作者不詳」としながら、世界的舞踏家で、日韓の難しい時代の中で苦労の人生を歩んだチェ・スンヒさんの写真が展示されており、単なる美術展というよりは、歴史の渦の中で揉まれてきた人たちの姿を美術展という形で表現したものだった。 侵略者と被侵略者という立場について言及しながらも、そういった対立関係ではなく、その狭間で苦労してきた人たちについて描いたものだった。 最近、ニュースなどであからさまに日本を批判する報道がなされている中、一歩引いてものを見ようとする立場が、私にとってはとてもありがたい。
by matchino
| 2013-05-24 20:27
| 展覧会
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