最近、旅行したくてたまらない。それでか、今日見てきたソウル市立美術館の展示「City Net Asia」は旅行のような楽しみを与えてくれた。
アジア各国の美術館がキュレーションした作品を集めて行われる展示だ。ソウル、ジャカルタ、金沢、バンコクの4ヶ都市それぞれの展示室をつくり、そこで起きた災害をモチーフにした作品が展示されていた。災害に対する考え方や対し方も国ごとに違い、国民性のようなものも感じられて興味深い。 ジャカルタと金沢の部屋が私にとっては共感したが、その中で旅行について考えたというのは、インドネシアの作家の作品。ある人の生活についてインタビューをしながらジャカルタの風景を映し出すビデオ作品なのだが、その国に旅行に来ているような感覚を与えられたのだ。 その横に、現地のマーケットを再現したようなインスタレーションがあったためかもしれないが、映像だけでは感じられない現地の空気のようなものまで感じられたのだ。実際に旅行の途中で現地の人と交流したような感覚。今回の展示で都市ごとに分けて展示されていたのも、そのような感覚を与えられた原因かもしれない。 あと面白かったのは、ジャカルタの移動式映像装置と、生活雑貨を使った人形劇のような作品。津波の被害を受けた人たちの精神的治癒のために、移動式映像装置をつくったり、子供たちを集めてテレビを模した箱の中で人形劇のようなパフォーマンスをしたり。被災民に対する具体的な支援がとても暖かい。 その人形劇の中で作家は子供たちに「みんなが知ってるテレビは実物じゃないものを映すニセモノのテレビだよ。これは実際のものを見せるホントの3Dテレビだよー」という投げかけしたり、小道具などの劇の演出も面白く、大人でも楽しめるようなものだった。 また、子供たちの反応が興味深い。9・11テロの話をするのだが、子供たちとの対話はこんな感じだ。 「アメリカの高ーいビルディングは何かなー?」 「WTCー!!」 「そこに飛行機が突っ込んで、建物は倒れてしまいました。怒ったのは誰かなー?」 「アッラー!!」 「そうだねー。それからアメリカが怒ったよねー」 … というふうに進んでいくのだが、イスラム教圏でも9・11テロに対して「アッラーが怒っている」という認識なんだなあ、と意外に思った。 金沢からの作品は核や原子力などに関する作品が多かった。chim↑pomやヤノベ・ケンジの作品なんかは3・11以降の日本の状況をさらによく反映した作品として韓国でも注目を浴びているようだ。でも、インドネシアの作家たちの社会へのアプローチと違ってとてもアイロニカルで否定的だ。日本人として共感できなくもないんだけど。 あとはバンコクからの作品だが、時間がなくてさっとしか見られなかった。残念。 で、ソウルからの作品は、暗い社会問題や個人的な感覚に根ざしたものが多いように感じた。韓国に対する世界の認識が変わりつつあるが、その中に住む人たちの現実感というものはまだまだ暗いものなのかもしれない。 オーディオガイドを聞きながら回ったが、以前よりオーディオガイドの時間が長くなったように感じる。作家の他の作品の紹介もあったりして、どのような脈絡でこの作品がつくられているのかなどについても説明してくれる。 chim↑pomの作品は今回初めて見たが、説明を聞いていると、なんか気になってきて、帰ってから検索してみた。彼らのパフォーマンス(?)に同意はできないけれど、関心を持たせるには充分なオーディオガイドだった。最近は気になったものがあれば検索して広げることができるから、オーディオガイドなんかもそれを狙っているところもあるのかなあ。また、作品自体も社会問題と連携して、また、作家の中で流れを持って作られているものであるため、そういう意味も含めて、大きな流れを持った一連の行為、動き、人生そのものが作品になっているといったほうがいいかもしれない。そこに観客を巻き込んでいくということであるとするならば、「芸術によって世界を変えることができる」という主張もあり得るのではないだろうか。まあ、そのためにはもっと大きな流れを作らないといけないのだけれど。でも、昔よりはより社会の人たちが芸術に関心を持ち始めた今、それが可能な時は近づいているのかもしれない。 1時間くらいではじっくり見られないほどの充実した展示だった。夜8時まで開いているんだから、仕事帰りにでも寄ったらよかったなあ。展示は11月7日まで行われているので、また寄ってもいいか。
by matchino
| 2011-10-29 11:29
| 展覧会
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