<   2014年 02月 ( 3 )   > この月の画像一覧

昌慶宮大温室

前回からの続き。さて、「青春男女、百年前の世の中を貪る」の本が生んだ感動的な出会いとは?

うちの家族は、旧正月の連休はたいてい行くところが決まっている。故宮か民俗村、南山とかだ。その日はどこも開いてないし、故宮は入場無料になったりするから。多くのソウル首都圏に住む人たちも同じだ。
でもいつも行く景福宮や南山は飽きてきたので、行ったことのないところに行ってみようということで、昌徳宮と昌慶宮に行ってみることにした。
景福宮の東にあり、昌徳宮と昌慶宮は隣り合わせになっている。伝統的な韓屋様式の建物が並んでいてとても見応えがあるのだが、実は個人的には物足りない。14年も住んでいると韓国の故宮に行きまくっているからだ。それでもよくよく見てみると美しいと思う。
でも、そんな伝統様式の建築だけでなく、西洋式の建築に出会った。
昌徳宮から昌慶宮へ抜け、大きな池を回っていくと、その向こうに白い建物が見えた。

e0160774_20142968.jpg

あ、あれはあの本に出ていた温室だ!
見に行ってみたいと思っていたところ、偶然出会えたので興奮した。

e0160774_2015080.jpg


でも…あの温室だよなあ…?
なんか思ったより小さい…?
実は本をパラパラをめくりながら写真が目についただけで、その部分はまだ読んでいなかったので、これが本当にその建築なのか確信が持てなかったのだ。

後から確認してみると、その建築だった。
昌慶宮の大温室。
細く白い骨組みのペンキがところどころ禿げていて歴史を感じさせる。剥げた部分を見ると木製のようだ。後から知ったのだが、主な部分は鋳鉄で、木を併用しているとのこと。
e0160774_20153814.jpg

入り口のドアには梅のような花の模様がついている。これはスモモの花で、大韓帝国の象徴なのだそうだ。昌徳宮の仁政殿の屋根の上にもこの紋章が付いていた。
e0160774_2016059.jpg

e0160774_2020890.jpg

白い骨組みとガラスだけの、曲線を描く装飾が少しあるだけのシンプルな造りだが、とても美しい。
中に入るとまあ、普通の植物園なのだけれど、植物よりは骨組みの美しさに目が行く。
e0160774_20163492.jpg

e0160774_2017525.jpg

残念なのは、床のタイル。建てられた当時はレンガだったのが、後にセメントに変えられ、またタイルに変わったというのだけれど、何か安物のタイルという感じ。
e0160774_20172464.jpg

外に出ると、前には西洋式の庭園。春に来たらきれいだろうなあ。
e0160774_2018263.jpg



ここを訪れた時は、基礎知識がまったくなかったのだけれど、後で本を読んでみて、この温室の歴史が分かった。
この温室は、大韓帝国が日本に政権を奪われた後、朝鮮王朝27代王である純宗皇帝を慰めるためという名目で1909年に伊藤博文が造らせたもの。王宮である昌慶宮の建物を壊して、そこに植物園や動物園を造り、市民のための公園にしてしまったのだ。
解放後は動物園はなくなって王宮の建物が復元され、温室も存亡の危機に陥ったが、何とか残されてその姿を留めている。
この温室の設計をしたのは、フランスで園芸を学び、新宿御苑の温室を設計した福羽逸人・農学博士で、施工したのはフランスの会社だという。ただ、福羽博士は農業が専門のため、基本的なシステムの設計だけ行い、実際の建物の設計はフランスの会社が行ったのだろう。
この温室は、韓国にとっては、王宮が日本の手によって踏みにじられたという屈辱の現場だといえる。それを知ると複雑な気持ちだが、韓国の人たちがそのような歴史の刻まれた建築を残してその事実を受容しているように、私もそのような歴史から目をそらさずに、日韓両国の今を生きていこうと思わされた。
e0160774_20184482.jpg

[PR]
by matchino | 2014-02-16 20:21 | 建築 | Comments(4)

「青春男女、百年前の世の中を貪る」という本のこと

このブログで何回か紹介しているブログ「韓国古建築散歩」のりうめいさん(今年に入って初めて会えた!)が教えてくれた「青春男女、百年前の世の中を貪る」という本をゆっくり読み進めている。
e0160774_20234220.jpg


どういう本かというと、100年前の韓国の建築を見て歩きながら、その建築にまつわる近代史と、その時代に生きた人たちの物語が語られている。
著者のチェ・イェソンさん、チョン・クウォンさん夫婦は、それぞれ美術史を専攻した作家と建築家であるため、建築に対する造詣が深く、見たことのある建築に対してもより専門的な観点からの発見をさせてくれる。
そして何よりも、その時代に生きた人たちへの深い愛情に満ちた話がすばらしい。一章一章読み終えるたびにその余韻に浸り、その建築を見に行きたくなってくる。
歴史的建造物の活用についても彼らなりの意見が提示されているが、それも共感できる。
掲載されている豊富な写真もとてもいい。建築に関心のない妻も私がこの本を買ってきた時、「どうやってこんなきれいな本を知ったの?」と興奮していたほどだ。

で、今回したかったのは本の紹介だけではなく、ある建築に関する話だ。
そのための前置きとしてこの本の紹介をしてしまうのはあまりにももったいないのだけれど。
今回紹介したい建築は、この本に紹介されているもので、偶然、その建築に出会ったのだ。
その感激を書きたかったのだ。

というわけで、その感激の出会いの詳細は次回!
[PR]
by matchino | 2014-02-06 20:10 | Comments(4)

アルヴァロ・シザの建築が美しいミメシス・アートミュージアム

韓国の建築を調べていて検索に引っかかったのが、坡州の出版団地にあるミメシス・アートミュージアム。
行ったことのない美術館は行きたくて我慢できないたちなので、さっそく土曜日に訪問した。
妻と子供3人を連れて行ったのだが、これがとても苦ーい教訓を得ることになってしまったのだった。

さて、坡州市は韓国の北の端で、川縁に行くと北朝鮮が見える所だ。そういうある意味物騒な場所だけれど、ヘイリという芸術家村や英語村、ロッテアウトレットなど、人気のスポットもたくさんある。
そんな坡州市にある出版団地は、出版界を中心とした文化団地で、各出版社のギャラリーやイベントスペースなどが集まっている。内外の著名な建築家が社屋を設計しており、かっこいい建築物がずらりと並ぶ建築の野外美術館みたいな感じだ。

その一角にあるミメシス・アートミュージアムは、出版社のデザイン文具を扱うブランドのミメシスが運営する美術館。
道路に面した建物が多い中で、ここは芝生が植えられた気持ちのよい庭を抱えている。
e0160774_19371812.jpg

道路とゆるい境界線をつくる門の前で美術館を見上げ、その建物がつくりだす曲線の美しさに驚く。
e0160774_1937360.jpg

e0160774_19381643.jpg

白い打ちっぱなしコンクリートの壁だが、コンクリートとは思えないような軽やかな姿だ。青空と白い壁の調和も美しい。
e0160774_19373490.jpg

この美術館を設計したのはポルトガルの建築家であるアルヴァロ・シザ。韓国内では安養芸術公園にあるアルヴァロ・シザホールを建てている。

左の翼の先端から中に入るとブックカフェがある。カフェのスペースは広く開いた窓から差し込む明るい日差しによって和やかな雰囲気をつくりだしている。
その奥は本の販売スペースのためか明るさが抑えられており、高い位置にある窓から光が取り入れられる。
片方の壁に本棚があり、反対側にはタペストリーがかかっている。真ん中には島のように本を陳列する台が置かれ、割引された本が積み重なっている。さらに奥には美術書と手帳などが置かれている。
e0160774_19392428.jpg

冬の寒い日のためか、人も少なく静かだ。子供連れが私たちのほかに2家族。あとは2人組みが何組か出たり入ったりしていた。他の子供たちは静かに本を読んだりレゴで遊んだりしているのに、うちの上の子たちはゲームを取り合い、下の子はきゃーきゃー叫んで歩きまわって、このいい雰囲気が台無し…。

展示は奥のカウンターでチケットを買って展示室に行く。チケットは5000ウォンで、アメリカンコーヒーが無料で飲めるのがありがたい。
まず2階の展示室に上がる。階段もちょっと変わっていて、思わず写真を撮りたくなる。
e0160774_19401426.jpg

建物自体の形が曲線なので、展示室の壁も曲線。天井は採光のための窓があるようで、柔らかい光が入ってきている。
e0160774_19412480.jpg

今回の展示はポルトガルの作家のタペストリーや彫刻、インスタレーション、建築写真など。作品数は少ないけれど、作品とそれを取り巻く空間が何ともいえないいい感じで、来てよかったと思わせてくれる。
e0160774_19431945.jpg
e0160774_19434072.jpg

詩情的な作品が多く、「ポルトガルってそういう国なのかなあ」とか思わせる。ボルトガルに行ってみたくなってきた。
1階は建築に関する展示。建築家のインタビュー映像と数点の建築写真があった。この建築写真が美しくて思わずその前でたたずんでしまう。
e0160774_19441811.jpg

これはその写真を庭から見たところ。窓を挟んだ中と外の空間がなんだか心を和ませる。
e0160774_194515100.jpg

この美術館全体に漂う和やかさはどこから来るんだろう?光のためか、空間のためか、作品のためか…?
e0160774_19455724.jpg
e0160774_19462322.jpg


さて、美術館には大満足だったが、行き帰りがたいへんだった。ソウルの東にある九里市から行くと、地下鉄とバスを乗り継いで2時間半を越える。特に京義線が30分くらい待たされたので、3時間はかかった。
さらに寒い中でバスを待ったり、暖房の効きすぎたバスの中でずっと立っていたり、とにかく苦労の連続だった。
というわけで、今回得た「苦ーい教訓」とは、坡州の出版団地は春か秋に車に乗って行くべし!
でも、ミメシス美術館のあの静かさは冬ならではじゃないのかなあ。だとしたら冬も捨てがたいぞ…。
[PR]
by matchino | 2014-02-01 19:48 | 展覧会 | Comments(2)