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金蘭基氏の講演「近代の路地風景 〜 路地は都市の毛細血管である」

最近Facebookの友達になった「韓国古建築散歩」のりうめいさんが紹介してくださった金蘭基(キム・ランギ)氏の講義があるということでさっそく申し込んだ。
まず、金蘭基氏について紹介すると、路地の文化を研究し、路地の保存を訴えている方だ。といっても今回の講演を聴くまではどんな方なのかもよく知らなかった。

講演の方は、「デザイン評論家、チェ・ボムと行く文化探訪」のパート3「近代漫談」とシリーズの中での「近代の路地風景 〜 路地は都市の毛細血管である」という題名で行われた。

講演が行われたのは旧ソウル駅舎の2階で、この建物は今は「文化駅ソウル284」という名前で美術館として使われている。
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時間になる前に、金氏が話を始めた。
まず、「皆さんの意見を聞きたい」といって、この建物をどうしたらいいと思うかと訊く。この建物は日本人によって建てられたものとして、取り壊そうという意見もある中、文化的スペースとして使おうということで美術館になっているが、金氏の意見は思ってもみない使い方だった。
列車の駅として、再び使おうというのだ。もちろん、乗客数などを考えると不便ではあるが、その不便さも克服できるくらいの余裕が欲しいということだった。
また、趣のある建築を駅舎として使うことによって、現在ソウル駅の中にあるロッテマートのような商業施設は出て行かざるを得なくなるのではないかということだった。
現実味のない発想だといってしまうとそうかもしれないが、考え方の方向性ははっきりしているし、この後の話を聞いていても非常に一貫性があっていい。
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さて、乗っけから少し過激な発言で始まったこの日の講演は、デザイン評論家のチェ・ボム氏が仕切り直して始まった。
まず、第1部は金氏の路地踏査に関する話で、第2部はチェ氏との対談という順序で進められた。

正直なところ、第1部では昔の姿をそのまま残そうという、そういう考え方なのかと思った。確かに昔の姿が残っている路地は残したいと思うが、既に変わってしまった街の、昔の姿がどうだったかということを研究したからといって何の意味があるのかという疑問がある。
しかし、第2部の対談は路地に対する金氏の考えがよく分かり、とても共感できた。
チェ氏が投げかける金氏に対する質問と、それに対する回答と、またそれに対するコメントの一つひとつが共感できる内容だった。
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金氏の主張は次のようなものだ。
道には二つあって、道路と路地がある。道路は前へ前へと進んで行くことを強要される道だ。現代社会は道路のような社会だといえる。前へ前へと進む競争社会で、立ち止まったら後ろからクラクションを鳴らされる、止まることが許されない社会だ。
それに対し、路地はそこにとどまる道だ。そこで遊ぶこともでき、休むこともでき、近所の人たちとの交流が行われるところだ。
人は家を含めた路地で生活し、路地の外の社会に出て、また路地へと帰ってくる。

最近、路地がなくなってしまっているが、既になくなってしまった所は仕方がないとしても、今ある路地を保存しようというのが金氏の主張だ。そして、失われたコミュニティーの機能を回復しようというのだ。

しかし、それに対する反論もあった。
昔の路地というと、汚い、不便だ、犯罪の巣窟だ、といったイメージがあり、実際にそういう例があることは確かだ。
それに対して金氏が代案として出すのが日本の路地の姿だ。
韓国の路地を「コルモク」というが、金氏は「日本ではコルモクのことを『路地』といいます。その他にも『〜坂』といういい方もあります」と話しながら、日本の路地を見てきたときのことを話した。
日本の路地はとてもきれいで、住民が掃除をしながらお互いに助け合って、その路地を住みやすく、美しく保っている姿を見たというのだ。
だから、韓国の路地の良さをそのまま残しながら、より住みやすい姿をつくっていく必要があるのではないかということだった。

また、路地に対する批判としてこのような意見も出た。
特に急な坂が多い路地は老人にとって不便で、大きな事故につながりかねないというのだ。
しかし、金氏は「それはそれでいいのではないか」というのだ。
昔はどこでも不便だったのだし、路地を残すことによる利点を考えると、それは重要なことではないというのだ。
安全とか便利ということは至上のことであるかのように語られて、それに反対する人は悪者のように思われるような現代社会の中で、より本質を見極めている方なのだと思う。話を聞いていてとても気持ちがよかった。

建築家だった金氏は、コルビジェやミースなど、西洋の建築家を信奉しながら一生懸命勉強していたが、それとは打って変わって、「建築」ではなく、「道」の方に関心が傾き始めた。チェ氏の言葉を借りれば、「ポジ」の部分から「ネガ」の部分に関心が行くようになったのだという。
私も今まで路地を歩いてきたけれど、金氏がどんな視点で路地を見るのかが気になる。
講演の中で金氏は「路地のよさは実際に歩いてみないと分からない」と語った。
それで、今週の末に金氏が主催する街歩きイベント「一緒に歩こう! 燃える漢陽都城」に参加することにした。
天気予報は雨。どんな街歩きになるのか楽しみだ…。
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by matchino | 2013-11-05 22:51 | 建築 | Comments(0)
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